麻黄湯(まおうとう)
インフルエンザ、コロナ、38-40℃代の発熱に
体質
普段は、丈夫で体力のあるひと
どんな風邪症状に飲むとよいか?
無汗、のどの痛み、咳、くしゃみ、全身の寒気、全身の関節痛、高熱、全身倦怠感。(イラスト参照)
体温はどのように調節されているか?
葛根湯と同じく、体温上昇に働く経路が優勢となっており、体温下降に働く経路は抑制されている。感染症の程度が強いため、血管を収縮することで血流を体内の深部へ集めることで体温をしっかり上げて、病原菌と戦おうとしている生体の状態。
処方の解説
葛根湯よりさらに炎症が強い状態。炎症は強いので、麻黄の量も葛根湯より多く、のどの痛みも出てきているため、せき咽頭痛に対し効果のある杏仁が含まれています。麻黄湯は、強い咳に用いられる麻杏甘石湯に組成が似ています。麻杏甘石湯との違いは、炎症は強いけれども、血管内脱水をきたすほどではないので、体に潤いをもたらす「石膏」は含まれず、体を温める「桂枝」が含まれている処方です。高すぎる体温を下げるために、必要な発汗(麻黄・桂枝)を促し、抗炎症作用(麻黄・桂枝)でウイルスへの強すぎる反応を抑え、のどの辛さをとる(杏仁)、そんな処方です。
脈診
浮緊: 指を触れると表面に浮かんでいるようにすぐに感じられ、緊張が強い脈
大塚敬節: 臨床応用傷寒論解説, p.203. 創元社, 1966.
エビデンス
麻黄湯は、インフルエンザに対して抗インフルエンザ薬と同等の有効性があること※2、小児の発熱時間を短縮したこと※1、が報告されています。
麻黄湯に含まれる、麻黄と桂皮はインフルエンザウイルスの細胞内侵入をブロックすること※3、ウイルス感染の際に放出される炎症性サイトカインの過剰産生を抑制することで、炎症反応をコントロールし解熱効果をもたらす効果があること、が報告されています。
※1 小児のインフルエンザで、麻黄湯投与郡は発熱時間が短縮した Kubo T. et al : Antipyretic effect of Mao-to, a Japanese herbal medicine, for treatment of type A influenza infection in children. Phytomedicine, 14 : 96-101, 2007
※2 20-64歳の成人のインフルエンザ治療において麻黄湯は抗インフルエンザ薬と同等の効果がある Nabesima S, et al : A randomized, controlled trial comparing traditional herbal medicine and neuraminidase inhibitors in the treatment of seasonal influenza. J Infect Chemothe, 18 : 534-543, 2012
※3 麻黄湯は、エンドソームの酸性化を抑制することで、インフルエンザウイルスが細胞の中に入るのをブロックしている可能性がある Masui S, et al. Maoto, a traditional Japanese herbal medicine, inhibits uncoating of influenza virus. Evidence-Based Complementery Alternative Med 2017; 2017: 1062065
※4 鍋島茂樹 ほか 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高熱に麻黄湯が有効であった一例 日東医誌, 72巻2号204-207, 2021
麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
風邪なのに冷え冷えして、とにかくしんどい、横になりたい人
適応
インフルエンザやコロナにかかったけど、あまり熱は上がらない。お年寄りや、倦怠感が強い・顔色が悪い・背筋の悪寒が強い・水様性の鼻水、などの虚弱体質の大人や子供によい。なんだか冷え冷えとして、とにかくしんどくて横になりたい!!熱産生ができないほどに代謝が悪い、ないしは、体力がないひと。ウイルス感染のため、体が冷え冷えとする、体を温かくしてひたすら横になっていたい人。
発汗はほとんどない。ウイルスの侵入に対し、生体がよわく反応している状態なので、高熱にはならず、扁桃のあたりで炎症が小さくある状態。鎮咳作用のある麻黄と細辛が含まれているので、喘息やアレルギー性鼻炎にも使われることもある。
「のどがチクチクと痛んで始まるかぜで、背中が寒くてつらく、顔色がすぐれない、という場合には老人に限らず、若者のかぜでも(麻黄附子細辛湯が)よく効くことが多い」※1
※1 類聚方広義解説, p223, 藤平健主講, 創元社
体温調節状態
体温調節の仕組み、感染症漢方の考え方、をまずご覧ください。体温上昇に働く経路、体温下降に働く経路、ともにほとんど活性化していない。ウイルスの侵入に体が抵抗していないため、一度風邪を引くと長引きやすい。
処方解説
のどの痛みや気道の炎症を取り除き、発汗・鎮咳作用もある麻黄、体を強烈に温める附子、抗炎症/抗アレルギー/皮膚の血流増加/鎮咳作用の細辛、の3つのシンプルな組み合わせ。
脈診
深く指を沈めていくと、ひとすじの絹糸※2を触れる感じ。
※2 漢方処方集, p240, 三潴忠道編著, 薬事日報社
他にもこんな使い方
麻黄附子細辛湯は、帯状疱疹後神経痛にも効くことがあります。麻黄で炎症物質を洗い流しながら、細辛が皮膚のTRP受容体に作用するのでしょうか。感染症漢方以外にも、鎮痛薬や体を温める薬として使用頻度の高い処方です。