漢方薬を構成する一つ一つの薬用植物を「生薬(しょうやく)」と言います。
一つ一つの生薬について説明しています。
見出し(例: 茯苓)の色分けの意味
〇〇: 赤いラインは「熱性」、体に熱を与える作用のある生薬。〇〇: ピンクのラインは「温性」、体を温める作用のある生薬。○○: 黄色ラインは「平性」、温めたり冷やしたりの特性がない生薬。○○: 水色ラインは「涼性」、やや体を冷やす作用のある生薬。○○: 青いラインは「寒性」、体を冷やす作用のある生薬。
葛根(かっこん)
- 基原: 葛(くず)の根
- 性味: 涼性・甘・辛
- 薬理: こわばった筋肉のコリを取り除く。
- 使い方: 風邪のひき始めで、肩や首筋がこるときによい。芍薬とならび「筋肉のこり・けいれん」に使われる代表的生薬。
- 豆知識: ①くずのでんぷんは、結合力が強くいったん固まるとふやけたりしない。薬用以外にも、くず湯、葛切り、くずもちなど製菓用に使われている。奈良「吉野葛」が有名。②米国1940年頃、水力発電所を作る際、ダムの土砂崩れを防ぐために、太く長い線維性の強固な根をもつ「日本の葛」が植えられた。この葛は、米国の風土にあっていたのか、 猛烈な繁殖を始め、米国の本来の樹木を弱らせ、今では害草として忌み嫌われている。③葛には弱い「エストロゲン作用(女性ホルモン)」がある。タイ産の近縁種(プエラリア・ミリフィカ)は、このエストロゲン作用が強く、「プエラリア」の名前のサプリメントで、「豊胸」「若返り」を謳って販売されている。しかし、この近縁種は、女性ホルモン作用が強すぎるため、女性の体内のホルモンバランスを崩す副作用があり、服用は危険と思われる。
呉茱萸(ごしゅゆ)
- 基原: ミカン科ゴシュユの果実
- 性味: 温性、辛苦
- 薬理: ①胃腸を温める、②痛みを止める、③消化管のむくみを取り除く
- 使い方: ①冷えによる嘔吐に良く効く、②頭痛のあまり吐き気をもよおすタイプの片頭痛によい、③消化管がうっ滞し、上腹部が張る症状に良い
- 豆知識: おそらく、私が知る中で最も味の悪い生薬。非常に味の悪い生薬だが、「消化管のうっ滞による嘔吐」に効きます。
当帰(とうき)
- 基原: セリ科当帰の根を湯通ししたもの
- 性味: 温性、甘
- 薬理: ①補血、陽気をめぐらせる、②安胎作用、婦人科系臓器の働きの活性化、③止痛作用
- 説明: ①内臓や皮膚の血行を促進し冷えや痛みを除く、②子宮・卵巣の働きを活性化させて不妊症や月経不順を改善する、③痛み物質を洗い流して頭痛などの痛みを止める
- 豆知識: 昔の中国の嫁は子供ができないと、実家に戻されていた。当帰を服用することで、妊娠できる元気な体になって婚家に「当に(まさに)帰る」ことができた、などの名前の由来説がある。
麻黄(まおう)
- 基原: シナマオウの木質化していない地上茎
- 性味: 温性、辛、苦
- 主成分: エフェドリン
- 薬理: 交感神経興奮、中枢興奮、鎮咳、気道分泌促進、気管支拡張、局所の発汗、血圧上昇、体温中枢に作用することで、体温を上げる、初期の炎症反応を抑制する作用など多彩。
- 豆知識: 麻黄による体温上昇は、ほてり・熱感はあっても、炎症反応によるものではないので、全身の倦怠感や頭痛・筋肉痛は伴わないことが多い。
- 副作用: 麻黄は、血圧を上げる作用・尿道括約筋収縮作用があるので、高血圧、不整脈、頭痛、甲状腺機能亢進症、前立腺肥大の持病のある方は要注意。①心臓の仕事量を増やすので、狭心症や心筋梗塞、不整脈、甲状腺機能亢進の既往がある人には注意を要する。②尿閉の副作用もあるので、前立腺肥大のある人には注意を要する。③胃がもたれやすいので、胃腸の弱い人には食後に飲むなどの工夫をする。④喘息の薬を飲んでいる人は、頻脈を起こしやすいので注意を要する。
- 私の失敗談: 麻黄は、前立腺肥大のある方に用いると、尿閉を起こしてしまう可能性があります。強い肩の痛みを訴える方がいまして、葛根湯に附子を追加したものを飲んでもらったのですが・・・次の外来で「おしっこ出にくい気がする」と言われ、冷や汗。やはり、高齢男性には、麻黄の入ったお薬は慎重に投与しなければいけません。麻黄が入っていると痛み止めとしてよく効くため、どうしても使いたくなります。(麻黄は表面の痛み物質を洗い流してくれるからです。)でも、尿閉を起こしては本末転倒になってしまいますね。合併症のある方は難しいです。
木通(もくつう)
- 基原: アケビ科アケビのつる性の茎を横切りしたもの
- 性味: 涼性、苦
- 薬理: 清熱利尿
- 説明: 炎症を抑え、むくみを取りたいときに使う。例: 尿道炎、膀胱炎、蕁麻疹
- 豆知識①アケビの果実は熟すと割れて中の果肉が見えるようになるので、「開け実(あけみ)」→アケビと変化した。②このつる性の茎は細い穴があり吹くと細いストローのように空気が通ることがあるので、「木通」という。③アケビは、別名「山姫やまひめ」というが、これは開いた実を女性の外陰部に例えたことから来る命名。
茯苓(ぶくりょう)
- 基原: 松などの根に寄生する菌核(真菌類)
- 性味: 平性、甘
- 薬理: ①利水作用、②健胃作用、③精神安定作用
- 説明: 消化管のむくみを取る作用があるため、胃腸系の漢方に含まれることが多い。また、筋肉の細かい、ぴくぴくした動きをとることができるため、
- 中国では、食用に用いられことも多く、「茯苓包子」というパンがある。マツタケの香りがして美味。